欧州統一特許制度の進展 -暫定適用の開始を受けて-

EU域内で「1つの特許」を「1つの裁判所」で権利主張できるようにする、欧州統一特許/統一特許裁判所(UP/UPC)の制度については、2017年の運用開始が期待されたていたところ、その合憲性についての争いがドイツ国内で続いたため長らく停滞した状況にありました。昨年8月のドイツ憲法裁判所の判断により争いが決着し、ようやくUP/UPC制度が動き出しました。(注:UP=Unitary Patent には「欧州単一特許」「欧州単一効特許」などの訳語が使われることもありますが、本稿では便宜上「欧州統一特許」と表記します。)

その後、統一特許裁判所(UPC)協定の暫定適用のためのプロトコール(注:UPC協定そのものではない)をドイツ、スロベニア、オーストリアが批准したことで、必要な批准の数が揃い、本年1月19日付けで暫定適用期間(PAP)の開始が宣言されました。UPC準備委員会によればPAPは少なくとも8か月続くとされており、その間に、裁判官の採用や裁判所のインフラ整備などが行われるようです。準備が整ったところでドイツがUPC協定を批准すると、それから4か月目の月の初日にUPC協定が発効し、UP/UPC制度の運用が開始されます。

UPC協定が結局いつ発効するのかについては「少なくとも8か月」+「4か月」で2023年初め以降になるという見方と、「4か月」は「少なくとも8か月」の内枠に収まるので2022年中の発効も可能という見方があるようですが、「少なくとも8か月」が「8か月」で済むのかもはっきりしない状況で、あまり気にしても仕方がないかもしれません。

当面、より気になるのは、いわゆるサンライズ期間がいつ始まるのか? の方でしょう。UPC協定が発効するまで何もしないでいると、発効以前に成立または出願された欧州特許(欧州特許出願に基づいて欧州各国で取得した特許)もUPCの裁判管轄に服することになります。それを望まないのであれば、適用除外(オプトアウト)の手続を行う必要があり、そのために設けられるのがサンライズ期間です。

2017年当時のUPC準備委員会は、2017年春(おそらく5月)に暫定適用期間(PAP)を開始し、同年9月初めにサンライズ期間を開始するというスケジュールを公表していました。今回も同様の進め方であれば、今年の5月頃にサンライズ期間が開始されるのでしょうか。欧州特許を多数保有する企業ではオプトアウトについて早めに検討しておくべきでしょう。

UP/UPC制度は、Brexit後の英国が不参加を表明したことで若干インパクトが低下した面はあるものの、EU域内で広く権利活用できる単一の特許を取得できることにより、欧州多数国で展開する事業との関係では相応の魅力があるものと思われます。他方、欧州統一特許の更新手数料は4か国分といわれており、もともと欧州の2、3か国程度で権利取得している出願人には縁遠い制度かもしれません。ことによると、欧州で特許侵害訴訟が最も多いドイツ1か国だけで権利取得すれば十分と考えて、ドイツ特許庁への(欧州特許庁を経由しない)直接出願を増やす企業も出てくるかもしれません。今後の実務の動向にも興味が持たれるところです。

2022.04.01 追記:

UPC協定では第一審裁判所の中央部をパリ、ミュンヘン、ロンドンに設けて、技術分野に応じて事件を配分することを予定していましたが、英国が不参加を表明した後、この3つ目の中央部の扱いがどうなるのかは不確定な状況にあります。国際知的財産保護協会(AIPPI)は今週、UPCに対し、ロンドンに設置予定であったUPC中央部の再配置(あるいは事件の再分配)について早急に方針を決定し公表することを勧告しています。

参考資料:

統一特許裁判所(UPC)協定の暫定的適用に関する議定書が発効(2022年1月19日;JETROデュッセルドルフ事務所 )

https://www.jetro.go.jp/ext_library/1/_Ipnews/europe/2022/20220119.pdf

UPC準備委員会リリース(2022年1月19日)

https://www.unified-patent-court.org/news/austria-closes-loop-protocol-provisional-application-upc-agreement-has-entered-force

UPC準備委員会リリース(2017年1月16日)

https://www.unified-patent-court.org/news/upc-provisional-application

AIPPI position of 29 March 2022 regarding the Unified Patent Court(2022年3月30日)

https://aippi.org/aippi-position-of-29-march-2022-regarding-the-unified-patent-court/

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