知財業務でのAI活用について(雑感)

日経産業新聞の「知財AI、企業の助っ人に 出願書類作成が『適法』認定」という記事に触れ(電子版;8月18日付け)、時間を置いてから再読し、少し考えてみました。 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC122VC0S2A710C2000000/

ある企業がAIによる出願書類作成サービスを利用することで「1週間ほどで書類を作成し特許庁に出願」できたという事例の紹介から始まる記事で(括弧内は記事本文からの引用、以下同じ)、AIのサービスを利用することで「従来のように特許事務所に依頼すると出願までに最低でも約1カ月かかる」という問題を解消できたのだそうです。

記事に付された図表中では(AI活用により)「数日で特許出願が可能に」なるところ、(AIを使わない従来のやり方では)「出願まで数カ月も」とされ、AIによるスピードアップが殊更に強調された記載ぶりとなっていて、少々違和感が残るところではあります。

まあその点は措くとしても、取引のある顧客から緊急事態なので急いで出願書類を作成してほしいと頼まれれば、一般的な特許事務所は「最低でも約1カ月かかる」などと言わずに、一日でも早く出願できるように協力すると思います。

・・とはいえ、筆者は決してAIの活用に反対ではなく、大いに結構だと思っています。以下にその理由を記します。

筆者の私見として、特許出願の書類作成にあたって弁理士が特に付加価値を発揮できるのは”入口”と”出口”だと思っています。”入口”とは、書類作成の方針設定であり、”出口”とは、それまでに一通り出来上がったドラフトを、ブラッシュアップして完成度を高めていくことです。いわゆる特許出願戦略は、これら”入口”と”出口”のプロセスにどれだけ知恵を注ぐかによって成否が定まるといえます。

AIが代替できるのは、”入口”と”出口”の中間にある、一通りのドラフトを整えるプロセスです。AIは作業を代替してくれても、戦略を考えてくれるわけではありません(遠い将来は別として少なくとも現状は)。より良い戦略を考えるための時間の余裕を人間に与えてくれるものだと思います。

なので、AIによるドラフト作成が実用に耐えるレベルに達したとしても、それは知財業務で弁理士が付加価値を発揮する意義を減じるものではなく、より高度な付加価値の発揮を促してくれるものだと考えます。実務的には、書類作成の方針は企業が設定し、ドラフトはAIが作成(少なくともアシスト)し、特許事務所はブラッシュアップ(”出口”のプロセス)だけを担当する、といった業務の進め方も広がってくるのかもしれません。

なお、あくまで筆者の推測の域を出ませんが、AIによる出願書類のドラフト作成を利用する上では、形になって提示された一通りのドラフトにどうしても引きずられる(概ね問題ないだろうと決めつけてしまう)傾向にならないか注意を要すると思います。また、一社のAIサービスを多数の特許出願企業が利用することで、出願書類の修正に関する各社のノウハウの流出(いわゆるコンタミネーション)が発生するリスクはないのかも気になるところです。

いずれにしてもAI活用の技術進歩はますます加速していくことでしょう。AIと弁理士が上手く棲み分けることで、知財のエコシステム全体として、より付加価値と生産性の高い業務が実現することを望みます。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。