早いもので、もう年度末。明日(令和4年)4月1日からの特許出願ではマルチマルチクレームが制限されることになります。
特許庁が今月公表した資料(「マルチマルチクレーム制限について」;以下、単に「資料」といいます)に記載された例を借りると、特許請求の範囲が以下のような場合:

ここで請求項3(マルチクレーム)はOKだが、請求項4(マルチマルチクレーム)はNGで拒絶されるわけです。
マルチクレームとマルチマルチクレームの違いは理論的には明確でしょうが、個人発明家や中小企業などで弁理士を介さずに自ら特許出願したい方などにとって、すんなり把握できるものなのかどうか少々疑問が残ります。少なくとも当面はある程度の混乱が生じるかもしれません。
今回の制限を設けた理由として、特許庁の資料は「国際調和並びに審査負担及び第三者の監視負担の軽減の観点から」である、と説明していますが、元々の拠り所になった「産業構造審議会基本問題小委員会での議論」(令和3年2月3日の基本問題小委員会「とりまとめ」参照)では、もっぱら審査負担を軽減する目的が強調されています。そもそも後者で指摘されている問題点は:
「引用形式を採らない場合に記載される請求項の数(実質的な請求項の数)」が 1000 以上になる出願が約 5%存在しており、このような特異な出願によって、審査に過度な負担が生じている。」( 「とりまとめ」第1、1.(1)の「課題①」)
というものであり、請求項の数が多くかつマルチマルチクレームが多用された「約 5%」の「特異な出願」の存在が課題であったはずが、いつのまにか全ての特許出願に影響する制限の新設につながっているのは、どこかで論点がすり替えられたような印象もなきにしもあらずといったところです。
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