特許料の値上げについて
「特許法等の一部を改正する法律案」が、本年3月2日に閣議決定されました:https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210302003/20210302003.html
開会中の第204回通常国会に提出予定とのことですので、通例に従えば、会期内に現状の改正案のまま成立するでしょう。改正項目は多岐にわたりますが、ここでは料金体系の見直しについて取り上げたいと思います。
改正案によれば、特許料を定める特許法第107条が、以下のように改訂されます(実用新案、意匠、商標についても同様な改訂がされます):
第百七条(現行法)・・・特許料として、特許権の設定の登録の日から・・・満了までの各年について、一件ごとに、次の表の上欄に掲げる区分に従い同表の下欄に掲げる金額を納付しなければならない。<「表」の数値は下記を参照>
第百七条(改正案)・・・特許料として、特許権の設定の登録の日から・・・満了までの各年について、一件ごとに、六万千六百円を超えない範囲内で政令で定める額に一請求項につき四千八百円を超えない範囲内で政令で定める額を加えた額を納付しなければならない。
従来は「表」に具体的に定めていた特許料を「政令で定める額」とすることで法改正を待たずに柔軟に変更できるようにしつつも、上限を設けることで「トンデモない金額にすることはありません」とアナウンスしている感じでしょうか。
改正後の条文をパッと見ると、あたかも登録後の年数にかかわらず一律の特許料の支払いを求めているかにも読めてギョッとしますが、さすがにそういう過激な変更はないであろうと予想します。何れにしても改正後の特許料が結局いくらかなのかは「政令」の公表を待つことになります。
以下では、現行の第107条の「表」に記載の特許料を、大幅な特許料の引き下げがされた平成20(2008)年法改正前後の特許料と比較できるようにまとめてみました:
こうして見ると、今回の改正案の上限額(「61,600円」+「一請求項につき4,800円」)は、どうやら「2008年法改正後の特許料と同レベルまで値上げできるようにしたい」という意図で設定された数字のようです。
一年あたり数百円から数千円の値上げであれば大したことはない気がするかもしれませんが、”チリも積もれば”で、多数の特許を保有する企業には相応のインパクトがあり、知財管理のあり方にも影響するかもしれません。
今回の値上げの背景として、前出のリンク先に掲載の「法律案概要」では「審査負担増大や手続のデジタル化に対応し収支バランスの確保を図るべく・・」とされ、また「法律案概要(参考資料)」には特許特別会計が「6年連続赤字」であるとの強烈なグラフも提示されています。
近年の特許出願数の減少傾向が、特許特別会計の赤字の一因となっていることは明らかでしょう。赤字解消のための特許料値上げが、特許出願数のさらなる減少を招くことになっては元も子もありません。具体的な料金の設定には、微妙なバランスが求められるところかと思います。
2021.12.30 追記)
関連する「政令」が本年12月21日に閣議決定され、特許料等の値上げ後の額が確定し、予定通り来年4月1日から施行されることになりました。値上げ後の額は、既に7月に公表されていた通りで:
早い年次ほど特許料の値上げ率が目立つ内容となっています。
本年7〜8月に行われた意見募集の特許庁による取りまとめ結果によれば、「今回の料金見直しの案は・・中長期的な観点で必要最小限の値上げ幅に留め」たものであり、「将来、財政状況が改善した場合には、料金の引下げ等を機動的に行うことを想定して」いるそうです:
特許庁の財政状況の早期健全化が期待されます。